人口増加に伴う食料不足を危惧し都市部でも安全な食材を提供するための次世代農業生産方式の研究開発、各種栽培方法を独自のプログラムで設計、研究するホリマサシティファーム。
2022年から展開する新規事業「いちご物語」プロジェクトについて農園責任者の太木純さんに話を聞いてみた。

文：星野昇子

安心安全で美味しいいちごを追求する仕掛け人

ホリマサシティファーム株式会社
いちご物語 研究所所長

明治大学農学部大学院卒業後、長野県の農業生産法人で主にレタスを生産。その後、埼玉県で花卉の農事業者にて7年半勤務し、2021年にホリマサシティファーム入社。いちご物語の農園責任者として、スタッフ一丸となって無農薬栽培に奮闘中。

「農薬不使用栽培で美味しいいちご」にチャレンジする観光農園

　「いちご物語」は、2022年千葉市に開業した観光農園併設型の農園。一般消費者がいちごの収穫体験ができるようになっている。いちごは、農薬不使用栽培が難しいといわれる作物のひとつだが、農地面積1.5haもの広大な農園規模で農薬不使用栽培にチャレンジしている。

　ホリマサシティファームは大分県安心院町にアクアポニックスや有機JAS圃場、埼玉県加須市に水耕栽培施設など、次世代農業生産方式の研究開発ファームを多角的に展開してきた中、観光農園は同社として初の試み。農園責任者として従事する太木さんは、「いちごは、いちご狩りという楽しみ方ができたり、農体験を通じ子どもたちへの食育の場づくりにもつながるといった構想から、いちごの観光農園開業に至りました」と説明する。

　太木さんは農学部、さらには大学院でトマトの研究を行い、農業界の一線を渡り歩いてきた。農薬を使うことが当たり前になっている農業の現状を目の当たりにして、今後の農業はこのままでいいのだろうかと思いながらも作物を作り、出荷してきた。

　2021年にホリマサシティファームに入社し、様々なプロジェクトを経験後、2022年3月14日にいちご物語開園と同時に責任者に大抜擢。農薬を使用せずにいちごを作る難しさに苦難の日々が続くが、観光農園に来て美味しそうに食べるご家族やお子様の満面の笑みと「どこよりも美味しい！」などの声に元気をもらいながら、日々美味しいいちご作りの研究に余念がない。

「無農薬栽培」が当たり前の世の中を目指して

　「いちごは農薬を使わないと作れない」そんなイメージを持つ人も多く、国内各地に多数産地があるものの、農薬不使用のいちごは大変貴重な存在。観光農園は、さらにレアケースといえる。「ありがたいことに、“待ってました！”という声もいただくんです」と太木さん。

　「農薬不使用＝害虫との闘い、病気との闘いなんです。“細かく観察する目を持つ”ことが重要で、いかに早期発見し、早期対策をするか、が鍵を握ります」。人の目が丁寧に行き届く管理と、入念なケアにより大事に育てられているわけだ。

環境負荷軽減と、地域との連携性。
そして全国展開へ

　「いちご物語」は運営においても、環境に配慮した持続可能型を目指し、様々な取り組みにチャレンジしている。
　例えばハウス栽培では、室内の室温・湿度管理が欠かせず、季節に応じて適切な環境を維持しなければならない。暖房設備稼働にエネルギーが必要となるが、使用済みてんぷら油から作られたバイオディーゼル燃料の一部導入を進め、CO2削減を行う。

　また、千葉県の特産品の１つであるアサリの、殻の廃棄が地域の課題だったことから、焼いて細かくしたものを肥料として活用している。「地域と一緒に取り組むことを増やし、農園に親近感を持ってもらいたい」そんな思いも語ってくれた。

「今後は、いちご物語プロジェクトとして365日間、国産で農薬不使用の美味しいいちごを供給することを目標として、全国に生産地を広げていきます。国内外の皆さんに安心して美味しいいちごをお届けできるよう、日々研究と挑戦をしていきます」と太木さんは目を輝かせた。2023年2月2日に開催された第１回全国いちご選手権では、開園間もないいちご物語から3品種入賞するなど、味の追及にも余念がない。これからの展開、拡大に、大いに期待を寄せたい。