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  • 東京の学校給食実現を目指す仕掛け人
2024.05.9

残食も減って子どもたちも感謝する。民間ならではのオーガニック給食!

  • 「美味しい仕掛け人たち」Vol.20
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「オーガニックが当たり前になり、オーガニックやビーガンなどの食事をとるのに苦労しない社会にしよう。そうなったらいいなと思っている。まだ、たどり着いていないからずーっと歩き続けている」。
彼女はそう言った。その言葉に嘘が無いことは話していてよくわかる。
 よく笑い、ハキハキと自分の思いを喋る。やっていることは凄いのにおごりが無い。営業は向いてないと本人は言うけれど、どれだけの農家さんが彼女の言葉に賛同し力を貸してくれただろうか? 
 順風満帆ではなかったに違いないが、危うげなところは微塵も無い。

文:板谷 智


東京の学校給食実現を目指す仕掛け人

株式会社オーガニック・キッチン 代表取締役
浦 美樹子さん Mikiko Ura

1970年生まれ。てんびん座B型で能天気な昭和の乙女。「人生は一度きり、思いっきり楽しむ」をモットーに「三方よし」の仕事を目指す。尊敬する人 稲盛和夫氏。趣味は銭湯めぐりとサウナ。弁当名も「ととのう弁当」と命名するほどサウナ好き。

▲子どもたちが勤労感謝の日に送ってくれた寄せ書き。子どもから送られるとウルウルきちゃう


料理家西邨マユミとの出会いが人生を変えた

 大学を卒業して1年半で職場を辞めた彼女は「世の中を良くしたい」と考え、NPOのボランティアで環境問題などに取り組んでいた。しかし、自分の理想通りにはいかない。政治を変えれば良くなると思ったこともあった。それも巨大すぎて叶わない。
 そんな時、世界的に有名な歌手・マドンナのプライべートシェフを務めたマクロビオティックの権威でもある料理家・西邨マユミさんが東京で講演会をするということで、たまたまその手伝いをすることになった。ある日、マユミさんの食事を食べた時、すごくおいしい上に身体の何かが変わったのを感じた。「食べ物で人の身体はこんなに違ってくるんだ」と、一度食べただけなのに衝撃を受けた。この時、「食を通じて社会を良くしていこう」と思った。
 その後2年間、彼女はマクロビオティックの学校に通う。基本的なことはそこで学んだ。早く起業することで社会に貢献できると考えた。

起業は2年後、オーガニックの弁当が話題を呼ぶ

 2年経ち、2009年9月に起業した。飲食の経験のないことが良かったと振り返る。「飲食って薄利なんだとか、労働時間が長いんだと知ってたら、自分でやろうと思わなかったかもしれない」。
 最初は30食くらい作ってリアカーに乗せて自分で売りに行った。働く女性に元気になってもらいたい。それと、有機農家を応援したいという思いもあった。
 「農家さんからは、野菜を作るのは好きだけど、売り先が無いとか、形がちょっと悪いだけで出せないとか、ロスが多いというのを聞いていた。食事どきのOLさんもこれが食べたいってわけじゃなく、とりあえず食べておこうみたいな食生活をしてる人が多い気がした。うまく組み合わせれば農家さんもハッピーになるし、働いている人も元気になる」と思った。
 当時はオーガニックという言葉も知る人ぞ知るという感じだったが、有機食材を使ってワンコインで買えるというのが目新しく評判を呼んだ。半年ほどやってるうちに自然食品店やオーガニックスーパーからも声が掛かり、パートも増えて工場も拡張したり移転したりした。

給食弁当にはお便りが添えられることもあり、いろいろな記念日にも対応する


コロナを乗り越え、オーガニック給食へ

 順調に進んでいたある時、近くの国立大学附属の中高一貫校の先生から相談を受けた。うちの育ち盛りの子どもたちに栄養のとれた食事を食べさせてほしいとその先生は力説した。力になってくれないかとのこと。ただ、学校は関与できないということだった。
 そんな時、コロナが猛威をふるった。大打撃だった。売り上げは8分の1くらいに落ちた。200社以上に出していた弁当が「来週からストップ」と言われた。うちだけではないとは言え、ショックだった。
 「在宅勤務してますが、家の近所ではどこで買えますか?」「ウーバーとかしてませんか?」徐々に連絡が入るようになり、待ち望まれていることは伝わった。会社としては冷凍弁当に着手するようになるきっかけでもあった。
 付属校の方もコロナで少し着手が遅れたが、専用のECサイトを作って、当日の朝までに申し込めば購入できるものを作ることにした。声を掛けてくれた先生のおかげで、それまでは働いている人に向けて「東京の胃袋を変えよう!」と作っていたものに、「子どもたちにちゃんとした食事を食べさせたい」が加わった。国立大付属校の副校長が、「オーガニックの食事を食べさせたいという要望が幼稚園から来ている」ということで紹介してくれて、この4月からは幼稚園でも給食弁当の提供をスタートする。今後、彼女はさらに学校給食を増やすことで世の中を良くするに違いない。


3月から小学校はご飯とおかずが分かれた容器になったが、幼稚園はこの一体型



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