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  • 未利用食材が生まれ変わる!
2022.05.11

オーガニックに未利用食材、サステナブルな食の姿を提案したい

  • 美味しい仕掛け人たち Vol.14
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製茶メーカーへの玄米提供に始まり、現在はさまざまな有機の食品・飲料素材をメーカーに提供する京都グレインシステム。消費者の目に触れる機会はほとんどない「黒子」的な存在だが、焙煎やパフ化、微粉砕などのオンリーワン技術で引っ張りだこだ。
ウェブ版ではいち早く取り組んだオーガニックや食のサステナビリティへの思いをまとめた。

文:松田慶子

未利用食材の有効活用で食のSDGsを提案する仕掛け人

京都グレインシステム株式会社
専務取締役 田宮尚典さん Hisanori Tamiya

1972年生、京都グレインシステム代表取締役田宮尚一氏の長男。住宅サッシメーカーで商品開発に従事後、1998年に入社。旧名阪工場、石川工場、中国工場2カ所、奈良工場を立ち上げる。 今は愛犬とともに北海道に赴任し、旭川フードデザイン研究所(旭川工場)の立ち上げに奮闘中。





玄米茶の玄米から、食品、医薬品素材まで

1970〜80年頃、京都の製茶メーカーへの玄米茶用玄米の供給から、事業が始まりました。冬の商材である玄米に夏商材の麦茶、ほうじ茶素材などの焙煎ものが加わり、お茶の素材を開発するため、1991年に京都グレインシステムとして創業しました。

90年代初頭は、成長するコンビニのペットボトル飲料市場に参入しようと、飲料メーカーがしのぎを削った時期でした。我々も飲料メーカー各社に穀物をカスタマイズして飲料原料として供給する、受託開発事業が増えていきました。


飲料事業は冬場が閑散期のため、食品素材開発事業を立ち上げました。焙煎技術を応用したきなこに始まり、雑穀ブームでは雑穀のパフ(膨化)を、スーパーフードブームでは発芽玄米などのパフを、シリアルメーカーなどに供給しました。海外事業としては、今は玄米茶の素や焙煎大麦(麦茶)など製茶素材を中心に輸出しています。

このほか未利用食材を開発するアグリ事業など、原料を食品業界のお客様に橋渡しする一次加工業者として、健康食品、医薬品、ベーカリー素材など、幅広く提案しています。


有機との出会い、井村氏との出会い

2002年頃、石川県が麦茶の麦を加工する企業を誘致されていて、当社が進出しました。行ってみるとオーストラリアから輸入するオーガニック麦で麦茶を作ることになり、麦茶の焙煎で有機JAS認証を取りました。これが有機に携わるきっかけでした。

転機になったのは、その1、2年後でしょうか、(株)金沢大地の井村辰二郎さんとの出会いでした。車で5分くらいの近所で大麦を生産されていました。

今は幅広く有機農業とその加工品を展開されていますが、当時、井村さんの有機の生産は大変でした。農薬を使わないので虫は来るし、周囲の農家さんもその影響を受けるので、もうやめてほしいなどと言われていました。でも井村さんのオーガニックへの熱い思いに、私は共感したのです。


当社のコア事業である、ペットボトル飲料への素材ご提供にあたっては、業者として複雑な思いがあります。確かに利便性もニーズも高いのですが、そのために石油を使って環境を犠牲にし、お客様にはその容器に20円〜30円も払ってもらっている。サステナブルではないな、という後ろめたさはずっと持ち続けていました。

ペットボトル飲料の抽出後に大量に残る“かす”が、有効利用されずに廃棄されていることも課題に感じています。水びたしで腐りやすく、ほとんどは家畜の餌となります。

井村さんから、有機大麦を麦茶にできないかとご相談をいただいたとき、実は社内には反対の声もあったのですが、私はお受けしました。オーガニックの可能性に魅せられていましたし、当社としても簡便さに流されるだけでなく、ひとつでもふたつでも、農業のあるべき姿に近づける提案をしたかったのです。100kgから試作しました。その試みを経て、井村さんは今海外に30tほども出されています。先見の明がおありですよね。


農産物を輸出するには有機が必須に

麦茶の焙煎で有機JAS認証をとった後、玄米茶やパフ、きなこなど、他の技術でも相次いで取得しました。


この4、5年で、海外の食品展示会やスーパーなどでも有機素材の扱いが増え、輸出をするならオーガニック、という流れに変わりつつあります。日本の農産物は、年々厳しくなる諸外国の残留農薬の基準をクリアできないことが多くなり、むしろ有機認証がないと米国や欧州、アジアなど多くの国で輸出しづらくなっています。米国でよく売れる抹茶も、オーガニック商品への要求がより高まっています。

一方で有機であれば、ゆず皮パウダーをブラジルへとか、さつまいもパウダーをドバイへなど、ニーズが広がっています。台湾では、オーガニック以外は買わないという富裕層も現れ、日本に原料はないのかと聞かれます。輸出に目を向けていると頻繁にそうした話が出てきます。

日本の有機農業は普及が進みませんが、かといって「当社は加工屋なので、原料はありません」というスタンスでは提案が限られるため、有機に取り組む生産者の支援も始めています。

有機への転換には3年が必要です。これは生産農家さんにとって大きな負担で、身銭を切るのはむずかしい。そこで当社が投資として支援する形を整えました。最近、農水省も3年間の転換補助金制度を始めましたが、日本全体として有機を進める必要があるということですよね。


オーガニックと未利用食材の活用で、SDGsどまんなかへ

2021年に開設した旭川の新工場では、商品化の途中で食べられるのに廃棄される、農産物や水産物などの未利用食材の用途開発をしています。パウダー化することで食品に練り込むことができ、食品メーカーでも活用の機会が広がります。生産者も年間を通じて利益を得ることができます。


オーガニック赤ワインの生産を例に挙げると、ブドウの絞りかすはパウダーに、種は油を絞れるメーカーになど、必要なお客様に橋渡しできつつあります。またブロッコリーの茎のように、パウダー化すると20%以上がタンパク質という、貴重な素材もあります。今、代替肉や昆虫食が話題ですが、その前に国内に眠るこうした素材を十分に活用したいですね。

日本の食品市場の製品ライフサイクルはとても早いです。季節商品、地域限定商品など、メーカーはタイムリーな商品投入が必要で、疲弊してしまう企業も少なくありません。

未利用食材を活かすことで、お客様には既存のラインアップに新たな「味付け」ができるようお手伝いし、消費者の皆さまには食のあるべき姿、サステナビリティについて考えてもらう。そんな機会を広めていきたいと考えています。

廃校を活用した旭川工場。道内の未利用食材を加工し、メーカーに橋渡しする




京都グレインシステム株式会社
〒600-8233
京都市下京区油小路通木津屋橋下ル北不動堂町480番地  資生堂京都ビル2F
TEL : 075-353-8833  HPhttps://kyoto-grain.co.jp/


山田水産 山田社長

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