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2021.09.20

オーガニックのお菓子を当たり前の選択肢に。食を通じて、環境や資源のサスティナビリティを追求したい

  • 美味しい仕掛け人たち Vol.11
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オーガニックのお菓子シリーズ「Biokashi」の仕掛け人

アルファフードスタッフ株式会社 常務取締役
浅井 紀洋さん Norihiro Asai

1983年生まれ、名古屋市出身。演劇にどっぷり漬かった学生生活の後、ソフトバンクグループ、伊藤忠商事を経て2014年にアルファフードスタッフに入社。父が始めたオーガニック食材の取り扱いを積極的に推進し、2018年にオーガニックのお菓子のブランドBiokashiを立ち上げ、食を通して環境や資源の「サスティナビリティ=持続可能性」を追求している。

文:川原舞子

※このページは、「Kitchen Love the Earth(キチラブ)」第11号本誌掲載の「美味しい仕掛け人たち」の記事のロングバージョンです。あわせて本誌記事もご覧ください。

→本誌第11号についてはこちらから

菓子工場の有機JAS認証の取得を支援し、
オーガニックのお菓子の裾野を広げる

Biokashi誕生のきっかけは、店頭でのお客様との会話です。
2016年から、ビオセボンさんのドライフルーツやナッツの量り売りコーナーに、当社の商品を納品しています。実際に売り場に立つ中で多く聞かれたのが、「オーガニックのお菓子の選択肢が少ない」という声でした。

日本国内には菓子メーカーが1万社以上ありますが、そのうち有機JAS認証を受けているのはわずか10数社。Biokashiは素材が見えることはもちろん、国内製造で作り手の“顔が見える”ことを大切にしています。ところが、菓子業界で有機JAS認証に対する理解が進んでいるとは言い難い状況です。

当社は2006年から自社工場で有機JAS認証を取得しています。その経験を活かして菓子工場の有機認証取得を支援し、一緒にオーガニックのお菓子の裾野を広げていきたいと考えました。2018年にBiokashiブランドを立ち上げた時は自社商品のドライフルーツやナッツのみの展開でしたが、岐阜の長良園さんとのご縁ができ、生おからのクッキーがラインナップに加わりました。

生おから

駄菓子メーカーへの砂糖の卸売から国産小麦、
海外のオーガニック食材の流通へ

当社は大正14年(1925年)、私の曽祖父が砂糖屋として創業しました。曽祖父は愛知県岡崎市出身なのですが、次男だから自分で事業を興そうと、20歳の時に名古屋で商売を始めたようです。商店街の一角にある店で、地元の駄菓子メーカー砂糖を卸売していました。
戦後に法人化。高度経済成長で砂糖の消費量が伸び、景気が良い時代もあったのですが、1975年をピークに砂糖の消費量が減少に転じます。

砂糖の代わりに、加工品に果糖ブドウ糖液糖が使われるようになり、味覚の多様化で家庭での砂糖の消費量も減ってきました。そこで、私の父がやはり食品である以上、安心安全を追求したいとうことで、当時はまだ珍しかった国産小麦の流通事業をスタートしました。

生協さんからの引き合いをきっかけに数百グラム単位の袋詰めができる加工場を作り、自然食料品店やこだわりのベーカリーさんとのお取引も増えました。
その後、取引先からの要望でドライフルーツやナッツ等の海外のオーガニック食材の輸入を手掛けるようになり、2006年には自社工場で有機JASの認証を取得しました。

学生時代は演劇に熱中
エンターテイメントの世界での活躍を目指す

私は学生時代、家業を継ぐことはまったく考えていませんでした。敷かれたレールに乗るなんて負けだ、自分で道を切り開いていこうと思っていたのです。
高校時代から演劇にハマって当時通っていた男子校になかった演劇部を作り、大学は演劇をやるために早稲田大学に進学しました。大学は勉強ではなく、もっぱら芝居のことばかり。脚本や演出などエンターテイメントの世界に進みたいと思っていました。

学生劇団の主宰をした経験から経営を学ぶことで将来に生かしたいと、新卒では新しい事業を次々に立ち上げていたソフトバンクグループに就職。入社したのは、転職サイトを手掛ける事業会社でした。そこで中小企業の経営者や大企業の人事担当者への営業を担当していたのですが、ここで大きな出会いがありました。

従業員50人ほどの会社の社長さんが、ご子息が会社を継がないので、後継者になる人材を探しておられたのです。何人か適切な方をご紹介でき、評価もしていただいたのですが、ある時社長に呼ばれて「息子が継ぐと言い始めた。だからこの採用は中止して欲しい」と言われたんですね。社長はとても嬉しそうでした。
その時、自分の父や祖父、曽祖父が歩んできた道に思いを馳せ、雷に打たれたような気持ちになりました。会社は自分が継ごうと決め、帰り道で父に電話をして、入社の意思を伝えました。

アメリカのクルミ生産者の言葉が転機に
オーガニックの目的は、サスティナビリティ

食品業界での経験がまったくなかったので、2011年に伊藤忠商事に転職。チーズなど乳製品の輸入と販売を経験し、賞味期限があるものの取り扱いや在庫繰りという考え方を学ばせていただきました。

2014年に当社に入ったのですが、転機になったのは2015年に訪れたアメリカのクルミの生産者からかけられた言葉です。広大な敷地で、5万本ものクルミの木を育てている彼に「あなたはなぜオーガニックをやりたいのか?」と問われ、「これからのトレンドになる」と答えた私に対して、彼はただ一言「分かってない。理由はただ1つ、サスティナビリティだ」。

彼はお父さんを癌で亡くされていることもあり、農薬が散布者に与える影響を非常に気にしていました。「土に化学肥料を使うことで、微生物の食物連鎖を壊してしまう。そのようなやり方はしたくない」と。さらに、クルミの殻を燃やして自家発電することまでやっていました。

「あなたもサスティナビリティ(=持続可能性)を伝えて欲しい」

彼からもらった言葉に衝撃を受け、食を通じて環境や資源のサスティナビリティを追求する、と心に決めました。

野菜チップスやナッツチョコレートを新発売
「オーガニックサブスク」にも参加

Biokashiはその、サスティナビリティを追求するうえでの1つの形でもあります。
ブランドのコンセプトとして掲げている「4つの約束」があります。

  • ①素材が見えるお菓子
  • ②製造工場が見えるお菓子
  • ③オーガニックであるお菓子
  • ④笑顔になれるお菓子

有機JASの認証を受けるのはとても大変だという印象をお持ちのお菓子メーカーさんが多いのですが、誤解があればそれを1つ1つ取り除きながら、一緒に認証の取得まで支援すること。それにより、そのお菓子メーカーさんが新しい商品づくりの可能性を見つけたり、それまでになかった販路を切り開くことができるとすれば、私にとっては大きな喜びです。

Biokashiシリーズは現在8アイテム。今年の秋冬にはチョコレートをコーティングしたナッツ&ドライフルーツ、有機の規格外野菜で作ったノンフライの野菜チップスが新アイテムとして加わります。

今後もBiokashiのラインナップを充実させていくとともに、ビオセボンさんのドライフルーツやナッツの量り売りコーナーのようなパッケージを必要としない量り売り事業の推進、製造過程のフードロスの削減などに取り組んでいきたいと思います。

「オーガニックのお菓子を当たり前の選択肢にしたい」という思いから、「オーガニックサブスク」にも参加します。みなさまにもぜひ、Biokashiを体験していただきたいです。

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