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  • 本職を圧迫するほど映画鑑賞に没頭する映画ライター・板倉が、「キチラブ」的映画をご紹介。
2021.08.3

知らなかったでは済まされない 子どもの未来を脅かす食のもう一つの側面

  • Kitchen Love the Cinema Vol.10
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Vol.10「食の安全を守る人々」

メディアが報道しないことを映画は教えてくれる

「食の安全を守る人々」と聞いて、どんな人を想像しましたか? 私は無添加の食べ物を作ったり、無農薬の野菜を育てたりする人たちのことかなと思いました。それは一部は正解ですが、そればかりではありませんでした。

映画を観始めると、いきなりデモのシーンから始まり、ん? どういうこと? と戸惑いました。それは自分があまりにもこの国の食や農業に関する問題を知らなかったからです。種子法廃止、種苗法の改定、除草剤の規制緩和、表記無しのゲノム編集食品流通など、今こんなことが起こっているんだと映画は教えてくれます。

映画というメディアには、知らないことを教えてくれるメリットがあります。もちろん、映画で言っていることが必ずしも正しいとは限りませんが、自分が知らなかったことを知るきっかけを与えてくれます。

この映画で触れていることの多くは、多分、「キチラブ」読者の皆さんでも知らない人が多いと思います。なぜなら、メディアが報道してこなかったからと、この映画では説明しています。いくら私たちに身近な問題でも、私たちの身の安全に関わることでも、報道されない事実があるのだそうです。それをこうやって映画にしてくれることで知ることができました。そして、無謀な法律改正に反対したり、残留農薬の量を調べたり、子供に安心できる食事を提供できるように努力してくれている人たちがいることを知りました。

取材先は海外にまでに及ぶドキュメンタリー

映画は、元農林水産大臣の人が、日本国内のみならず、アメリカや韓国に取材に行き、いろいろな人にインタビューして回ります。一般的にドキュメンタリー映画は制作費が少ないことが多いのに、海外まで取材をしていてスゴイなぁと思ったら、クラウドファンディングで多くの人から支援金を集めたそうです。それだけ、人々の関心が高いことなのでしょう。

取材の中でさまざまな事が明らかになります。なるほど、最初のデモの人たちはこういうことを訴えていたのかとわかってきます。それは、海外では危険性が証明されている農薬が日本では規制緩和となって平気で使用されていたり、安全性未確認のゲノム編集された作物が、その表記をする必要もなく出回っていたりということ。まるでこの国では、国民の健康や命を守るのではなく、企業利益を優先させているように見えてきます。
この元政治家の人は、自分が政治家だった頃にこの問題を改善することができなかったから、今の活動をしているようにも見えました。

ただ、一方向からの取材に終わらないようにしているところは、この映画の公平性を感じました。

それは、中盤にインタビューされる京都大学の准教授のこと。彼は、国内のゲノム編集の一人者だそうで、ゲノム編集を用いた魚の研究に取り組んでいます。漁業の未来を考えると、この研究が救世主になると信じ、安全性の高さも考慮しつつ研究しています。なので、彼はゲノム編集を公表して販売すればいいと言っています。しかし、実際には表記無しで流通できるように進められています。いったい誰の思惑なのでしょう?

この映画のナレーションは、杉本彩さん。落ち着いた声で、淡々と説明してくれるので、観やすいつくりになっています。

映画を観たからって変わらない・・・でも!

映画を見終えた後、同じ回を観終えたカップルの声が聞こえてきました。「こういう映画を観ると、観た直後は考えさせられるんだけど、明日になると忘れちゃうんだよな」と。その感想は正直な気持ちだと思います。自分を振り返ってもそういうところがあるかもしれません。

でも、まずは知ることからだと思います。知ることは、別の疑問を生み、次の知識を得るきっかけになります。それは、昨日のあなたよりは一歩進んでいることだと思います。普段の生活をいきなり変えることは無理でも、一度知ったことで知識の幅がとても広がり、変化の芽が生まれるに違いありません。多くの人に観て何かを感じ取ってもらえたらと思います。

「キチラブ」という媒体に原稿を寄せながら、筆者はあまりオーガニックに詳しくありません。なので、この映画で語られていることが、どれだけ真実を伝えているのかはわかりません。ですが、オーガニックであることの重要性は伝わりました。それは、子どもたちを見守る人たちの目がとにかく優しいから。オーガニック初心者の筆者には、この映画が出発点になったような気がしました。

【作品データ】

「食の安全を守る人々」

監督・撮影・編集:原村政樹  プロデューサー:山田正彦

語り:杉本 彩  音楽:鈴木光男  © 心土不二

2021年/日本/103分 公式サイト https://kiroku-bito.com/shoku-anzen/

ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開中!

 

映画ライター:板倉京一/これまで映画館で観た映画約5000本。緊急事態宣言中ながら劇場稼働中! オリンピックにもハマって観るもの多すぎ!

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