Vol.4「実りゆく」
お笑い芸人orりんご農家の跡取り!
農家の跡取り不足というのは、りんご農家に限らず深刻な問題。親としては、代々受け継がれて来た家業を自分の代で終わらせるわけにはいかない。しかし、子供にしてみれば一度限りの自分の人生、好きなことにチャレンジする夢は捨てたくない、というのもわかります。また、地方の過疎化や少子化、経済の停滞など、先行きの不透明な時代に本当にこの仕事を続けていけるのかという現実的な問題もあります。
今回紹介するのは、りんご農家の跡取りとして生まれながら、お笑い芸人になる夢を追いかける若者の映画です!
一人前のりんご農家として認めてもらう式典がスゴイ!
長野県のりんご農家の跡取りとして生まれた主人公実(みのる)。週末になると東京に行くので父親はいい顔をしません。東京で彼はお笑いライブに出演するという生活を送っていました。吃音で子供の頃からいじめられていた実ですが、なぜか舞台上でだけは流暢に喋れるのです。それは今は亡き母親が気づかせてくれたプレゼントでもありました。母親の死後、笑わなくなった父親を笑顔にしたい。実の心の内にはこんな想いもあって、お笑い芸人を目指すのでした。
りんご農家の式典とお笑い芸人の大会が同じ日で悩むエピソードがありますが、その式典がスゴイんです。りんご農家を継ぐ者は25歳になったら、まるで花魁道中のように、町中を練り歩くというもの。最後に町を納めるりんごの神様にりんごを納めるという奉納祭(下記写真参照)。これをやらないと一人前のりんご農家として認めてもらえないというので、長野にはこんな風習があるのかとビックリしたのですが、どうやらこれは映画のオリジナルのようでした。そうですよね〜w
タイタン芸人大挙出演!
この映画、「MI-CAN 未完成映画予告編映画大賞」で注目され、映画化に至ったという異色作。爆笑問題が所属する芸能事務所タイタンのリアル芸人「まんじゅう大帝国」の竹内一希が主演を務め、お笑い芸人として先に東京で自活している同郷の幼馴染を相方の田中永真が演じています。不器用な生き方しかできない主人公を竹内は瑞々しく演じますが、舞台上では水を得た魚のごとく活き活きしゃべるのはさすが。
他に、地元の元ヤン姉ちゃんを日本エレキテル連合の橋下小雪が演じたり、爆笑問題も特別出演で応援するなど、タイタン所属の芸人が大挙出演。監督はタイタンのマネージャーというから驚きです。 また、父親役の田中要次をはじめ、三浦貴大、小野真弓、山本學といったベテラン俳優陣が、りんご農家として説得力のある演技を披露。普段何気なく食べているりんごですが、りんご農家さんの仕事ってホント大変なんだなとあらためて知りました。
うまくいかない時が人生には必ずある。それでも人生は続く……。
父親は一人息子の実がりんご農家を継ぐものだと思っているけど、実はお笑いの道を捨てられない。しかし、東京でひょんな経緯から幼馴染に怪我を負わせてしまい、楽しかったはずのお笑いすら気まずいものに……。どっちも中途半端でどっちも思うようにならない、まさに崖っぷちの実!
やることなすことうまくいかず、崖っぷちに追い詰められる主人公の姿は、コロナ禍で思うようにいかないことが多い今のご時世に妙に響きます。
人生には必ず選択を強いられる時があります。そんな時、必ずしも自分が望むことを選択できるとは限りません。だからこそ、せめて映画では夢を見たい! と応援したくなります。
作品データ
「実りゆく」全国公開中!
※上映劇場は下記公式サイトでご確認ください。
監督/脚本:八木順一朗 エグゼクティブプロデューサー:太田光代
出演:竹内一希、田中要次、山本學、爆笑問題(特別出演)
配給:彩プロ ©「実りゆく」製作委員会
2020/日本/カラー/87分 公式サイト https://minoriyuku-movie.jp/
映画ライター:板倉京一/これまで映画館で観た映画約5000本。映画館に行こう!