Vol.2「もったいないキッチン」
映画館再開! いよいよ劇場で映画が観られるというこの時期、本誌読者なら是非とも知っておいていただきたい映画が公開されます。第2回で取り上げるのは、食品ロスの問題を美味しく楽しく気づかせてくれる映画『もったいないキッチン』です!
日本の食品ロスの現状にビックリ!
本誌読者ならご存知かもしれませんが、映画の冒頭で語られる「日本では国民一人当たり毎日おにぎり1個分を捨てている」という世界トップクラスの食品ロスの現状には驚かされます。言葉で知る以上に映像で観るとその量に圧倒されるのです。実は、この映画の本編を見る前に紹介映像を観る機会があったのですが、そのシーンのインパクトがスゴくて、きっとこういうシーンが次々出てくる食品ロスの問題を声高に訴える作品だと思っていました。ところが実際に観てみると、そんなお勉強っぽい映画ではなく、日本のあちこちを旅して、いかに美味しく楽しく本来なら捨てられる食材を使って料理ができるかを求めて行くという、とてもハッピーな楽しい作品で、いい意味で裏切られたと思う内容でした。
まだ食べられる物を捨てることに抵抗がある日本人
前作『0円キッチン』(2015)の記憶も新しいダーヴィド・グロス監督は、食材救出人(フードアクティビスト)として世界中を旅している人です。今回は環境保護活動家のワンガリ・マータイさんが掲げた「MOTTAINAI」が世界共通の合言葉として注目を浴びたことで、その言葉に導かれて日本にやってきました。
監督は「もったいない」という言葉は無駄だけを指す言葉ではなく、創造的な解決策も示す言葉ではないかと思いました。先にあげたように、日本は食料廃棄という大きな課題を抱えていますが、食べ物を無駄にしたくない日本人には、より良い未来のためのサステナブルなアイデアが多数あると思ったのです。そこで、通訳のニキと共に、福島から鹿児島まで、日本中のあちこちを旅し、もったいない精神を共有するシェフや生産者たちを訪ね、いろんな話を聞きながら、各地でもったいないキッチンをオープンしていきます。 家庭の冷蔵庫の賞味期限切れ食材を使い料理人が腕を振るったり、規格外野菜を使ったパーティーをしたり。また、食糧農業機関(FAO)も推奨する昆虫食に挑戦したり、野菜くずでも調理する精進料理を目隠ししていただく「暗闇ごはん」も体験。82歳の野草料理専門家とは食材を確保するために一緒に野山を歩く…などなど、コロナ禍が終息したら、いつか訪ねてみたいと思わせる魅力いっぱいの人々が外国人監督の目を通して描かれます。そして、いつしか食品ロスについて考えている自分に気づきます。
いいドキュメンタリーは人間が描かれている!
登場する人々のなんとイキイキしていることか! それは自分たちの行なっていることが、結果的には人のために、自然のために、地球のためになっているそのことが、楽しくてしょうがないんでしょう。野草を集めることも、鰹節にモーツァルトを聞かせることも、精進料理を目隠しして食べることも、信念を持って楽しんでいるんです。やっぱりドキュメンタリーはこうでなくちゃ。これがドキュメンタリー映画の醍醐味です。 賞味期限という呪縛に惑わされることなく、自分たちの目と手で食材に向き合うと、こんなに楽しく、心も身体も元気になるのかと驚きました。食費も節約でき、ゴミ処分にかかる税金の軽減にまで繋がる「もったいない」の精神は、サステナブルな未来のためのキーワードと言えるでしょう。キチラブ読者の皆さんには、子どもたちと楽しくこの映画を観て、「自分にできることは何?」と家族で話し合ってみるのはいかがでしょうか?
作品データ
「もったいないキッチン」
監督/脚本:ダーヴィド・グロス「0円キッチン」(2015)
出演:ダーヴィド・グロス、塚本ニキ、井出留美 他
制作/配給:ユナイテッドピープル 配給協力/宣伝:クレストインターナショナル
2020年/日本/95分 公式サイト http://www.mottainai-kitchen.net/
8月8日(土)、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー
映画ライター:板倉京一
これまで映画館で観た映画約5000本。まだ映画館に人が少ない!