Vol.2「大豆田とわ子と三人の元夫」
昨年はコロナ禍の影響で、4月スタートのドラマが撮影中断したり放送延期になったりとすったもんだしていましたが、今年の春ドラマは順調にスタート。
早速4/13から始まったのが『大豆田とわ子と三人の元夫』。タイトル通り主人公の大豆田とわ子(松たか子)には元夫が三人います。つまり、3回結婚して3回離婚したということ。中3の娘を育てながら建設会社の社長をしているとわ子が、まだとわ子に未練のありそうな三人の元夫に振り回されつつ奮闘するという大人のロマンチックコメディーです。
三人の元夫を演じるのは、一人目が「カルテット」で松たか子との共演も記憶に新しい松田龍平、二人目が昨年は「半沢直樹」ですっかり役者としての認知度を上げた東京03の角田晃広、そして三人目は映画にドラマに大活躍しているイケメン俳優の岡田将生。
坂元裕二、キター! その脚本の魅力!
本作の一番の見どころは、今、若者たちを中心に大ヒットの映画「花束みたいな恋をした」の脚本担当、坂元裕二が描く、掛け合いの面白さが堪能できるオリジナル脚本にあります。
坂元裕二と言えば、月9の代名詞「東京ラブストーリー」の頃から30年以上に渡り第一線で活躍してきたレジェンド脚本家。トレンディドラマ以降も「わたしたちの教科書」「Mother」「最高の離婚」「問題のあるレストラン」「カルテット」と代表作を数え上げればキリがありません。彼の脚本の特徴は、社会問題を巧みに盛り込みながらも、日常生活で交わされる軽妙なセリフのやり取りと、そこから生まれるチグハグなおかしさや心理描写の奥深さにあります。決して殺人鬼と刑事の心と身体が入れ替わったり、ゾンビが徘徊する街で恋人を探したりするような劇的な話ではありませんが、テンポのいい掛け合いはクセになる人も多いでしょう。
また、モノローグ(独白)やナレーションを効果的に使うのも特徴で、この作品でも第1話を観て、本編に登場しない伊藤沙莉がナレーションを担当していることに驚いた人も多いと思います。
こんなシーンがありました。社員の誰かが買ってきた有名な店のカレーパンを社内で何人かが食べていて、少し離れた席からとわ子社長にはそれが目に入っています。1個残ったパンについて「それは社長の」と言う社員がいて、とわ子は思わずニッコリ。ところが「社長にカレーパンは失礼じゃないか」と誰かが言って「じゃあ俺あんま好きじゃないけど、食べるわ」と別の社員が食べてしまいます。ここで伊藤沙莉のナレーションが入ります。「みんなとカレーパンを食べれないなら社長になんかなりたくなかった」。続いて帰り道のシーン。すれ違う女性の茶色いポシェットを見るとわ子にナレーション「何を見てもカレーパンのことを考えてしまう」。社長という立場にありながら、この可愛いさ! 本人のモノローグだと生々しい声になりそうですが、第3者の淡々としたナレーションだから、余計に笑っちゃうんです。
食事シーンは登場人物の素が出る!
キチラブ的には食事シーンに注目したいところ。日常を丁寧に描く坂元裕二の脚本に食事シーンは欠かせません。
思い出すのは「カルテット」第1話のから揚げにレモンをかけるか論争です。それは、本作にも出演の松たか子と松田龍平に加え、満島ひかりと高橋一生の4人のカルテット(弦楽四重奏)が一緒に食事をするシーンでのこと。大皿に盛られた鳥のから揚げが食卓に上がった時、から揚げ全体に当然のごとくレモンをかける松たか子演じる真紀。それを見ていた高橋一生演じる論高(ゆたか)は「レモンをかけるかどうかは個人の自由」と主張し、ケンカになります。この論争のインパクトは強烈で、放送後、大勢でから揚げを食べるときは必ずこの話題が出たほどでした。複数で食事をすることが難しくなった今、余計にこのシーンが愛おしく感じます。から揚げにレモンをかけるかどうかだけで、語り継がれるほどのシーンにしてしまう坂元脚本、さすがです。
本作での食事シーンでは、とわ子が三人の元夫それぞれと食事するシーンがありました。岡田将生演じる三番目の夫・慎森(しんしん)はとわ子の会社の顧問弁護士で、人数分しかない弁当を取られたとわ子は不満げに彼に言います。
とわ子「もう少し美味しそうに食べたらどうなのかな?」
慎森「栄養摂取するときに、美味しいって言う必要あるかな? そもそも美味しくある必要があったのは人類が栄養を摂る意味を知らなかった頃のことで、今や人類は・・・あ、うるさい?」
「カルテット」を思わせるセリフの応酬。それに加え、いたずら心でとわ子は彼の飲んでいるコーヒーに彼の目を盗んで塩を入れます。飲んだ時の彼の顔を期待するとわ子。ところが邪魔が入って、結局そのコーヒーはとわ子が飲んでしまう羽目に。セリフも仕草も楽しめるシーンです。
食事シーンは、その人物の素を一番出しやすいんじゃないでしょうか? それぞれ食べるという行為を優先し、会話に真剣になっていないから、何気なく本音もポンポン出せるように思います。 二番目の元夫、一番目の元夫とどんな食事シーンがあるのか、観ていない方はぜひ見逃し配信でご確認を!
観逃せないであることは間違いない!
というわけで、「“おいしいドラマ”は第1話でだいたいわかる」というコンセプトで始めたこのコーナー、連載第2回目にして、もうこの先の展開が全然わからないものに出会ってしまいました!
第1話のラストで、元夫の三人にそれぞれワケありそうな女性が現れましたし、とわ子にも第1話の斎藤工のように、毎回新たな男性との出会いがあるのかもしれません。今後の展開は読めませんが、このドラマが1話足りとも見逃せない作品であることは間違いありません! 会社社長でありながら、バツ3のとわ子の生き様に、キチラブ読者もきっと心を揺さぶられることでしょう。鬼才・坂元裕二が描く大人のロマンティックコメディーをご堪能ください!
【作品データ】
「大豆田とわ子と三人の元夫」
毎週火曜夜9時〜(カンテレ・フジテレビ系全国ネット)
脚本:坂元裕二 音楽:坂東祐大
演出:中江和仁 池田千尋 瀧悠輔
出演:松たか子 岡田将生 角田晃広 ・ 松田龍平 ほか
制作協力:カズモ 制作著作:カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/mameo/
ドラマウォッチャー:板倉京一/プロフィール
新ドラマの第1話はとりあえず観ないと落ち着かない。週に20本以上のドラマを観ている。