Vol.7「風の電話」
「風の電話」をご存知ですか?
風の電話は、岩手県大槌町に実際にある電話ボックスです。でも、電話線はどこにも繋がっていません。なのに、東日本大震災以降、ここには3万人を超える人々が電話をかけに来るそうです。会えなくなった人と話すために。
今回、ご紹介するのはこの電話をモチーフに作られた映画です。ところが、始まって2時間近くは風の電話のことは話題にも出て来ません。さて、どんな映画なのでしょう?
食べることが生きる力を与えてくれる
女子高生ハル(モトーラ世理奈)は9歳の時に津波で家族を失いました。今は広島の叔母さんの元で暮らしています。ある日、叔母さんが倒れて入院してしまいました。また自分の周りから人がいなくなる……。
病院からの帰り道、豪雨災害の跡地に入ってしまい、瓦礫の間をさまよううち、震災の記憶が蘇ったのか、「お母さん!お父さん! 会いたいよー!」とハルは感情が爆発して、動けなくなってしまいます。
たまたま車で通りがかった地元住民(三浦友和)に助けられ、母親と2人暮しの自宅へ招かれます。彼らも前年の豪雨で厳しい生活をしていました。自分らが生きているのは偶然だと言いながら、少しボケ始めた母親と共に温かい汁物とご飯をもらうハル。
その後、駅まで送ってもらったハルは、まだまだ危なげな様子ではありましたが彼と別れます。そこから、ハルはかつて家族と暮らしていた岩手県の大槌町を目指します。
ヒッチハイクで乗せてくれた気のいい若い夫婦にファミレスでご馳走になったと思えば、夜のベンチでパンを食べていたら男たちに乱暴されそうになったり。でも、次に彼女を助けてくれた男(西島秀俊)は、福島の元原発作業員で彼の車でいよいよ東北の地に……。
それまで自分の殻に閉じ籠っていたハルですが、さまざまな人々と出会い、話をし、食事を共にすることで、みんないろいろなものを抱えて生きていることを感じます。
キチラブ的には出会う人がそれぞれにハルに食事を振る舞うところが見どころ。具体的にどんな料理かまではわからないものも多いのですが、「生きていくには食わなければいけない」「まずは食え」「これも食え」と食事のシーンがとても印象的でした。食することの根源を教えられた気がします。
風の電話で伝えたかったことは
さまざまな出会いを経て、ハルは広島に戻ろうと駅のホームに立ちます。そこで、浪板海岸に向かおうとする少年と出会い、風の電話の話を聞きます。
「私も一緒に行っていい?」 興味を持ったハルは少年と一緒に風の電話を目指します……。風の電話がどんな場所か、そこでハルは何を話すのか、それはぜひ映画でご確認ください。
東日本大震災から今年で10年。もう10年かと溜め息が出ますが、忘れてはならない記憶です。この10年の間に震災にまつわる映画もたくさん作られました。食の映画とは言えませんが、キチラブ読者の方にもぜひ観ていただきたいと思い、紹介させていただきました。
作品データ
『風の電話』
監督:諏訪敦彦
出演:モトーラ世理奈、西島秀俊、西田敏行、三浦友和
制作・配給:ブロードメディア
2020年/日本/139分 公式サイトhttp://www.kazenodenwa.com/
ブルーレイ&DVD発売中
発売元:ブロードメディア
販売元:ハピネット・メディアマーケティング
©︎2020「風の電話」製作委員会
映画ライター:板倉京一/これまで映画館で観た映画約5000本。コロナの影響で公開延期や配信に切り替えられた映画多数。映画館がんばれ!