Vol.15「フード・インク ポスト・コロナ」
工業製品化する農作物
キチラブではこれまでも多くの良質なドキュメンタリーを紹介してきました。本作もキチラブ読者にぜひ観ていただきたいと思い、紹介させていただきます。
これは、アメリカで食の意識を変えたと言われる画期的なドキュメンタリーの続編です。2009年にアメリカで劇場公開されるや大ヒットとなった前作「フード・インク」。
日本では2011年、東日本大震災の直後に劇場公開だったために観ていない人も多いかもしれません。しかし、続編である本作だけを観ても充分そのテーマは伝わると思います。
インク=INCとは企業のこと。直訳すると食糧会社、みたいな感じでしょうか? 巨大企業の効率至上主義が異常な食品業界の構造を生み出しています。農業製品であるはずなのにまるで工業製品のように管理された食品たち。より安く、効率よく食べ物を収穫するためには遺伝子組み換えをはじめとするさまざまな加工がなされます。
人への配慮を蔑ろにし、経済優先で進む食料品業界。同じ食品でも価格に差があるのは、農業自体が巨大企業と化した異常な食糧事情にあったとして、前作はアメリカ中にインパクトを与えました。
日本でも抱えている問題
その第2弾となる本作。当初監督は続編を製作するつもりはなかったそうですが、2020年に起きた新型コロナ感染が食肉加工工場のホットスポットになり、全米が食糧不足に陥ったことをきっかけに、前作から15年経って現状の食料システムがどうなっているかを伝える必要があると考えたそうです。
大企業が市場を独占し、移民を低賃金で雇い、農産物の買い上げ価格を低く抑えるフェアトレード問題や温暖化ガスの排出を減らすために牛の飼育を止めて人工肉にしようとする動きなど、ひと筋縄では行かない問題を浮き彫りにします。また、政治家と結託する経営者側と低賃金で働かされる労働者の姿は、深刻な格差社会を抱える日本の現状と重なります。
添加物、人工甘味料、合成香料などを科学的に調合した食品は「超加工食品」と呼ばれ、単に糖分、塩分、脂肪の取りすぎではなく、脳にも影響し、中毒性があることも語られます。
そんな最新のフードシステムからくるリスクの多くを知ることが出来る貴重なフードドキュメンタリー。映画はアメリカの現状を描いていますが、日本も決して対岸の火事とは言い切れません。
では、どうすればいいのでしょう? もはや個人レベルで立ち向かえる問題ではない気もします。しかし、本作には革新的な方法でサステナブルな農業を営む農家さんや海の可能性を捨てない漁師さんが出てきます。希望の光も見えているのです。
日本でも権力や目先の利益にとらわれず食べ物を選んでいきたいものです。無理を承知で言えば、「フード・インク ポスト・コロナ」の日本版がぜひ観たいと思いました。
キチラブの読者にこそ観てほしいこの映画。現在、新宿シネマカリテほかで公開中。このあと、全国で順次公開予定です。
【作品データ】
「フード・インク ポスト・コロナ」
提供:パーティシパント&リバーロード
製作・監督:ロバート・ケナー メリッサ・ロブレド
2024.12.6.公開 アメリカ 94分
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