• キッチンから消費者と地球をつなぐ情報誌 Kitchen Love the Earth(キチラブ)

  1. ホーム >
  2. 連載 > Kitchen Love the Cinema >
  3. 世界で一番しあわせな国にやって来た中国の料理人が 北欧フィン・・・
  • 本職を圧迫するほど映画鑑賞に没頭する映画ライター・板倉が、「キチラブ」的映画をご紹介。
2021.02.15

世界で一番しあわせな国にやって来た中国の料理人が 北欧フィンランド人の胃袋と心を温める!

  • Kitchen Love the Cinema Vol.6

  • シェア

Vol.6「世界で一番しあわせな食堂」

世界幸福度ランキング1位の国のしあわせムービー

コロナ禍で苦境に立たされた飲食店が掲げる「黙食」という取り組みに、切実な想いを感じ胸が締め付けられますが、いつかまた、こんな食堂のように常連客とワイワイやれたらどんなに楽しいだろうと思わせる映画が、フィンランドから届きました。その名も「世界で一番しあわせな食堂」

フィンランドと言えば世界幸福度ランキングで3年連続1位を獲得している国。その国でこのタイトル、どれだけしあわせな人たちばかり出てくる話なんだろうと思いますが、果たしてどんな映画なのでしょうか。物語はフィンランド北部の小さな村の食堂に、中国人親子が人を探して訪れたところからスタートします。

おいしい料理は人を幸せにする

食堂を訪れた中国人チェンは英語は話せますが、フィンランド語は発音が難しく、フィンランド人は必ずしも英語が喋れるわけではないので、意思の疎通も難しく、人探しもままなりません。この食堂を一人で切り盛りしているのは、バツイチのフィンランド人女性シルカ。彼女は行くあてのない親子を泊めてあげたり、常連客にチェンの尋ね人を聞いたりしてくれます。フィンランドの小さな村にやって来る異邦人が中国人というのがまず面白いんです。初対面の人との接し方、食事に対する考え方が中国人とフィンランド人ではまるで違い、異文化の出会いには思わず笑ってしまいます

ある日、中国人の団体客が訪れ、ソーセージとポテト以外のものを食べたいと言い出します。困ったシルカをチェンが助けます。実はチェンは上海の高級料理店の料理人。彼が作った料理に中国人団体客も大満足です。これをきっかけに彼は食堂を手伝うようになります。

食堂の常連客たちはこれまで中華料理なんか食べたことがなかったのでしょう。食堂で出していた料理と言えばポテトとソーセージくらいですから。それを地元の人たちはこれが料理だと言わんばかりに当たり前に食べていました。見た目がまるで違う中華料理など、気持ち悪いと言っていたくらいです。

しかし、恐る恐る食べてみると、これまで味わったことのない美味さにびっくり。「おいしい料理は人を幸せにする」とチェンは言い、これをきっかけにチェンは徐々に村人たちと打ち解けていきます。

食べると健康になる料理

チェンの作る料理は、中国人団体客向けの鶏のスープ麺から始まり、近くの湖で釣った魚のスープ、トナカイの香草焼き、野菜炒め、魚のあんかけなど、美味しいだけでなく、常連客の身体をどんどん健康にするものでした。

ここはキチラブ的にも見逃せないところ。薬膳料理でもある中国料理は、色、味、盛り付けなどのバランスを重視し、さまざまな効能があると言います。しかも、活動的な人には落ち着く料理を、のんびり屋には活発になる料理を、また男性向けか女性向けかによっても素材や調理方法が違ってくると言います。この中国料理人の華麗な調理方法に見とれ、さまざまな料理にお腹が鳴ってしまいそうです。

チェンの料理のおかげで体調が良くなった常連客は「今日から中国料理しか食わん」とすっかり中国料理贔屓に。介護施設の老人をたくさん連れて来て、彼の料理を広め始めました。

彼の作る料理が身体に良いと知れるや続々人がやって来ます。みんなそれぞれ持病や悩みを抱えていたんです。そりゃあそうです。世界幸福度ランキング1位であろうと、そこに住む人たちは普通の人たち。やれ血圧が下がった、便秘が治った、腎臓の結石がオシッコで出た、と食べる物でこんなに効果が出るのかとびっくり。それを教えてくれたチェンは奇跡の人と呼ばれるようになります。

シルカはそんなチェンに惹かれ、長くここにいてほしいと考えるようになります。そして、彼から料理を学んだり、恩人探しを手伝ったりとだんだん親密な仲になっていきます。でも、チェンの息子はなかなか心を開こうとしません。息子が心を閉ざしているのには理由がありました。

異文化の出会いに大きな喜びがある!

息子が森で迷子になったり、常連客がチェンをフィンランド名物のサウナに連れて行ったり、恩人探しにまつわる彼の過去や彼の息子と母親のこと、徐々に惹かれ合うチェンとシルカなど、笑いあり涙ありのいろんなエピソードに引き込まれ、あっという間の2時間でした。

最初に書いたように、フィンランドの小さな村の大自然と上海の高級料理店の料理人という取り合わせがこの映画の魅力です。まったくの異文化が出会ったとき、好奇心と勇気を持ってそれを受け入れることの素晴らしさ。それによって人は自分自身の可能性を大きく広げることができることをこの映画は教えてくれます。

今、世の中は自分たちの主張ばかりにこだわる分断が広がっています。まったく異なる文化を受け入れようと努力する登場人物たちに、監督のメッセージが込められていると思います。

このご時世ですから、なかなか映画に行くこともままならないと思いますが、たまには一人で出掛けてみるのもいいのではないでしょうか?

作品データ

『世界で一番しあわせな食堂』

2021年2月19日(金)新宿ピカデリー、渋谷シネクイント 他、全国順次ロードショー

監督:ミカ・カウリスマキ 脚本:ハンヌ・オラヴィスト
出演:アンナ=マイヤ・トゥオッコ、チュー・パック・ホング、カリ・ヴァーナネン

2019年/フィンランド・イギリス・中国/114分

配給:ギャガ/後援:フィンランド大使館
公式サイト: https://gaga.ne.jp/shiawaseshokudo/  ©Marianna Films

 

映画ライター:板倉京一/これまで映画館で観た映画約5000本。

緊急事態宣言延長は仕方ないと思いつつ、レイトショーが出来ない映画館は本当に大変だと思う。頑張れ、映画館!

関連する記事