Vol.12 「土を喰らう十二ヵ月」
野菜、山菜の魅力が伝わる素朴な料理の数々
「土を喰らう」とは何やら物騒な話に思えますが、「旬のものを食べること」を言うそうで本誌の理念にピッタリ。今回はそんな映画をご紹介します。
「雁の寺」や「飢餓海峡」で知られる文豪水上勉の料理エッセイを原案として、長野の山奥で自ら収穫した野菜や山菜を食し、一匹の犬と暮らす作家ツトムの一年間を描いている本作。妻を亡くしてもう13年にもなるツトムは、出版社からの依頼で、精進料理を作りながら自炊する山の生活のエッセイを書くことになリます。
主人公は少年時代に禅寺で精進料理を学んだ経験から、登場する料理は基本、素材を活かした繊細なものばかりです。小芋を半分に切って囲炉裏で網焼きしたものや、タラの芽を濡れた紙に包んで焚火で焼いたものなどは料理とも呼べないような素朴なものですが、これがめちゃくちゃ美味しそう。
旬の野菜や山菜で漬物を作ったり、おひたしを作ったりということが多いなか、調味料と言えば味噌が登場。味噌のお師匠とも言える義母の通夜では、ツトムが急遽料理を振る舞うことになり、胡麻豆腐やふろふき大根を手作りすると通夜の席で大絶賛になりました。
そんな精進料理をベースにした繊細な料理を再現したのは料理研究家の土井善晴。原案に出てくる料理をいかに再現しているかがこの映画の見どころのひとつになっています。さらにツトムが使う器や調理道具も、彼が日本各地から取り寄せたこだわりの逸品ばかりです。
監督は「ナビィの恋」「ホテル・ハイビスカス」といった沖縄を舞台にした映画で知られる中江裕司。エッセイに滲み出る料理へのこだわりや食に向き合う精神をエンターテイメントな映画として脚本化しました。
実際に現地で育て収穫した野菜を使用
本作に登場する野菜の大半は、なんとこの映画のために育てたものだとか。ロケ地である長野の廃村で、茅葺屋根の廃屋を改造し、家の前の土地に畑を作るという徹底ぶり。スタッフは現地に移り住んで、ほうれん草、じゃがいも、小松菜、茄子、スイカ、白菜、トマトなど、地元の農家の方の指導のもと、季節に合わせて収穫できるようにスケジュールを組んで撮影したそうです。
まるでドキュメンタリーのようなこの作品で主人公ツトムに扮するのは沢田研二。雪の中、冷たい湧き水で採れたての大根を洗う姿のリアリティは、一年半かけて撮影した苦労のたまもの。本当に何年もここに暮らしているかのようでした。また、エッセイのような主人公のモノローグは、彼の声の良さが際立ちました。
時折訪ねてくる担当編集者の真知子には松たか子。ツトムの年の離れた恋人でもあり、通夜の時にはツトムの助手としてテキパキ料理を手伝います。食べっぷりも見事で、こちらのお腹も鳴ってしまいそうでした。
キチラブ読者なら是非とも観ていただきたい本作は、11月11日(金)から全国一斉公開されます。
長野の四季の描写と共に、旬のものを食べる味わいと喜びを通じ、生きることの本質を考えるこの作品をぜひご堪能ください。
【作品データ】
『土を喰らう十二ヵ月』
監督・脚本:中江裕司 原案:水上勉 料理:土井善晴 音楽:大友良英
出演:沢田研二、松たか子
2022年/日本/111分 公式サイト https://tsuchiwokurau12.jp/
製作:『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会 配給:日活
制作プロダクション:オフィス・シロウズ
© 2022 『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会