もくじ
養殖うなぎを無投薬にした仕掛け人
山田水産株式会社代表取締役
山田 信太郎さん Shintaro Yamada
1974年生まれ。魚屋の長男に生まれ育ち、物心のついた時から「社長になること」を念頭に置いて過ごしてきた。駒澤大学卒業後、阪和興業に入社。米・シアトルに1年ほど駐在し、カニの検品・買い付け等を担当。1998年 山田水産株式会社へ入社早々、養鰻の新規事業へ携わり、蒲焼きの新工場の運営・管理を命じられた。2020年9月 偉大な創業者である父からバトンを受け、山田水産株式会社 代表取締役に就いた。経営者であり続ける為に、日々RUNトレと筋トレで自分を追い込み、常に『一つ上の階級』を目指し続ける。
文:板谷 智
※このページは、「Kitchen Love the Earth(キチラブ)」第10号本誌掲載の「美味しい仕掛け人たち」の記事のロングバージョンです。あわせて本誌記事もご覧ください。
後発業者が同じことをやっていてはダメ
将来を見据えた決断
山田水産が養鰻事業をスタートさせたのは1997年。当初は養鰻のセオリー通り、養殖うなぎを病気にさせないために投薬していました。養殖うなぎの病気の原因は主に2つで、食べ過ぎとストレスです。一般的に養殖うなぎは病気にかかるっていう固定観念があったけれど、しっかり管理していれば投薬しなくても病気にならないんじゃないかと思ったわけです。幸い、鹿児島にはきれいな地下水もある。シラス台地という天然のろ過フィルターにかけられて浄化されたきれいな水です。こういうのを使ってるわけだから、視察に行った中国とは事情が違うなと思いました。
先代社長からも後発業者が新しいことに参戦する時に、やっぱり一歩進んだものにトライしないといけないと後押しされ、日本はこれから、より安心安全な商品が必要とされる時代が必ず来るということで、無投薬に挑戦しました。
とは言え、簡単なことではなく、地道にうなぎと向き合って、うなぎが今何を求めているか、うなぎが出すサインを見逃さないことが必要です。
やはり、最初からうまくはいかず、1年目2年目は多くのうなぎを病気で死なせてしまい、損害も億単位で出しました。でも、目先の利益にではなく、事業として大きな挑戦をしているんだということで、続けさせてもらえたのが大きかったですね。世界中誰もやったことのない無投薬養殖に挑戦しないと我々の存在意義はないという思いでうなぎに向き合いました。
大切なことはうなぎが教えてくれる
基本的に養鰻場に住み込みです。うなぎが今どういう状態かっていうのをうなぎと向き合うことで、うなぎのサインがわかるようになりました。
うなぎのサインとは、具体的には食べ方だったり、泳ぎ方だったり、池の色だったり、臭いだったりします。こういうのを五感を研ぎ澄ませて向き合うことで、うなぎが今、何を求めているのか、もうこれ以上食べたくないのか、ストレスが溜まっていないか、仕方なく食べているようならエサをちょっと抑えめにするとか、食べたものを吐き出しているからちょっと水を変えてあげようとか、そういうふうに変化に対応します。
無投薬っていうと、そのために特別なことをしているんじゃないかと思われがちですが、そんなことはなくて、地道にうなぎと向き合って、うなぎが今何を求めているか、うなぎのサインをどう感じ取るかというところだけなんです。
これは、技術じゃなくて情熱でしょうね。無投薬でうなぎを育て上げるんだっていう情熱です。
無投薬だからより美味しい
でも、無投薬だから美味しいのか?っていう問題もあります。いくら無投薬で育てましたって言っても不味けりゃ本末転倒です。
ただ、病気にならないっていうことは、体調がいいということ。人間だって同じですが、体調が良ければストレスもかからないし、内臓に負担もかからないから食欲も旺盛なんです。そうすると脂ものって美味しいうなぎが出来ます。だから、無投薬のうなぎは美味しいんです。
うなぎに人生をかける人たちを山田水産では「鰻師」と呼んでいます。鰻師という職業はなかったので一般的には養殖業者とかになってしまうんですが、始終うなぎの事ばかり考えている専門家ですからね。日本酒を作る人を杜氏と言うように、尊敬と彼らの自覚を促す意味でそう呼びます。「生産者」じゃブランドにならないですからね。もう一つ、自分は「蒲焼」を世界標準の言葉「KABAYAKI」にしたいと思っています。それだけのポテンシャルがうなぎにはありますから。
江戸時代から続く食文化
無投薬養殖の次は究極のタレ
うなぎって江戸時代から続く食文化なんですが、江戸時代ってどんなタレを使ってたのかと考えたら、当たり前ですけどその頃は添加物なんてなくて、醤油と砂糖とみりんだけなんです。無投薬プラスαってなんだろうって考えた時、タレだなと思ったのですが、じゃあその江戸時代のタレを追求してみようと思って作ったら、今までで一番高いタレになりました(笑)。
それが「山田の粋 江戸前仕立て」です。
無投薬養殖して、江戸時代と同じ本物のタレを使って、炭火で焼いて。今出来る最高のものになったと思います。うなぎって実は低糖質なんですよ。「粋」の原材料表示を見るとわかりますが、蒲焼きでありながらすごく低いです。そんなところも今求められているものだと感じます。
アスリートも好む上がる食べ物
コロナ禍で、家で食べることが多くなり、普段はちょっと高いと思っていたうなぎが、外食することに比べたら安いなぁという金額で食べられる。食べてみたら確実に美味しいと思える。うなぎって栄養価もさることながら、食べる時って気持ちが上がるじゃないですか。そんな食べ物なかなかないですよね。
2015年のラグビーW杯で、日本が南アフリカに勝った試合の前日に、選手たちはうなぎを食べたという話があります。もちろん、うなぎを食べたから勝ったのかどうかはわかりませんが、実はアスリートとうなぎの親和性って高いんですよ。結構試合前にうなぎを食べるっていう話を聞きます。
満腹感にプラスして満足感が大きく、気分が上がる食べ物なので、試合前に向いているんですね。なおかつ無投薬で安全性もより高いわけですから、コロナ禍でも多くの方に食べていただけているんでしょうね。テンションがあがる分、免疫力も上がると思うんです。今後、ますます無投薬とか栄養価の高い食べ物っていうのがチョイスされていくと思います。
山田水産株式会社
有明事業所:鹿児島県志布志市有明町野井倉3581番地
有明には第1〜第5までの養鰻場があり、総面積は10万3,000㎡
公式サイト:https://yamadasuisan.com/
オンラインショップ:https://yamadasuisan.shop/