Vol.8「ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方」
驚き、癒され、考えさせられるドキュメンタリー
自然を愛するひと組の若い夫婦が都会を離れ、郊外の荒れ果てた農地を買い取って、究極の農場を創ろうと奮闘する8年間を描いたドキュメンタリー映画です。
アメリカの広大な大自然に驚き、動植物の愛らしさに癒されるこの映画は、コロナ禍で自宅にこもりがちな今こそ、家族で観たい映画です。では、詳しく説明しましょう。
保護犬を飼い始めたチェスター夫妻。しかし犬の鳴き声が原因でマンションを出て行くハメに。それならば、前からやりたかった農業をやりたいと2人は広大な荒地(200エーカー=東京ドーム約17個分だとか)を手に入れます。しかし荒地は硬い土で覆われ、とても作物が育つとは思えないものでした・・・。
理想の農場にかける想いが半端ない
農業の素人なのだから、すぐにうまくいくはずがありません。ここで妻は、ネットで「伝統農法のコンサルタント」という人を見つけてきます。最初はちょっと胡散臭く見えましたが、伝統農法の分野では世界的に名の知れた専門家だそう。彼の最終目的は、農場の中で生態系を再現することだと言います。
最初のうちはその専門家も荒地の酷さに嘆いていましたが、植えるべきでなかったものを取り除き、土壌を一から作り直すことを提案。水を引き、溜池を作り、大量のミミズによる堆肥施設を作ります。当然人手も足りないので、またネット上で「伝統的な農業をしませんか」と募集しました。そして、鶏や牛や羊などの家畜も飼い始めます。1年分の予算が半年で消えたと言っていましたが、確かに相当予算をつぎ込んでいる感じです。この夫婦の理想の農場にかける想いは半端ないものでした。
自然と共存し、命のサイクルが回り出す
ここで映画では語られない予備知識を披露しましょう。
この夫婦、そもそも何をしていた人かと言うと、夫のジョン・チェスターは動物ドキュメンタリーなどの制作・監督・撮影をやって来た人。本作の監督も撮影もこの人なのです。妻のモリーは料理家。一見無謀と思えるこの事業計画ですが、ちゃんと下地はあったのです。
とは言え、そもそも映画を作ろうとしてやり始めたことではなく、映画になるかもと思ったのは、5年くらい経ってからだそうです。
最初の数年は苗木を植えたり、動物を増やしたりで、小さな喜びや発見はあるものの、うまくいかないことの方が多いくらい。自然の生態系が循環するなんてまだまだ先の話です。
植物と家畜、野生動物が互いに手を取り合って、農産物を生み、土を肥やし、共に生きていくなんて夢物語に思えます(この辺りもアニメを使ってわかりやすく解説してくれます)。しかし、荒地だったところに草木が生え、水辺ができたことで、野鳥や虫が帰って来ました。 ある時、果樹園の木を枯らしていたアブラムシを農場にやって来た何百匹のてんとう虫が駆除してくれることがありました。同様のことがあちこちで起き始め、ようやくこれは映画化できる!と思ったそうです。
地球の未来を考える、今観るべき映画
映画はそんな奇跡を次々見せてくれます。8年のうちに荒地がどうなったのか、ぜひ映画を観て確認してください。そこには今後の地球環境を考えるヒントがいっぱい詰まっています。当サイト『キチラブ』は、キッチンから地球を考えることをコンセプトにしていますが、SDGsやサステナブルな考えを実感するには最高の映画と言えます。
コロナ禍で映画業界はかつてない苦境に見舞われました。この映画も2020年の春公開だったため、劇場自体が休館となったり、公開延期になったり。劇場で上映が再開されたあとも、映画館へ足を運ぶ人は激減してしまいました。しかし、キチラブ読者の方には、ぜひこの素晴らしい映画を、地球の未来を背負う子供たちと一緒に観ていただきたいと思います。
もう一つだけ、本作の見どころをお伝えしておきますと、映像の美しさと言えます。 一度、公式ホームページから予告編をご覧になってください。さすが長年ドキュメンタリーを手がけて来た監督です。殺処分寸前で救われた愛犬トッドが、一度に15匹の子を産んだ親豚エマが、その他の動物たちも、さまざまな植物も昆虫も、そして大自然も、とにかく美しく、愛おしいのです。これらすべてが共存する地球という星の存在自体が奇跡に思えるに違いありません。
作品データ
『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』
製作・監督・脚本・撮影監督:ジョン・チェスター
出演:ジョン・チェスター、モリー・チェスター、愛犬トッド、動物たち
配給:シンカ © 2018 FarmLore Films, LLC
2018年/アメリカ/91分 公式サイト https://synca.jp/biglittle/
Amazonプライムビデオ、Google PlayなどにてTVOD配信中!
映画ライター:板倉京一/これまで映画館で観た映画約5000本。コロナ禍で観られる映画は激減したが、なんとか応援したい!