【第1回】木桶の魅力
はじめまして。おいしいものを探して旅しているsonoです。
「おいしいとは何か」を知りたくて、調味料メーカーや流通関連の品質管理の仕事に携わり、新商品開発や官能評価と機器分析による品質評価を行っていました。そんな中、日本の食卓に欠かせない醤油や味噌が、どのように作られてきたのかを知りたくなり、休日に蔵巡りをするようになりました。
そこで出会ったのが木桶です。

大豆・小麦・塩というシンプルな素材から生まれる、驚くほど複雑で奥行きのある味わい。それが100年以上も前に作られた木桶で醸し続けているということ。代々続く蔵の中で、人の手で丁寧に仕込み、蔵の空気とともにゆっくり発酵していく姿に心を打たれました。
それまでは分析の世界で「数値でおいしさを測る」ことをしていた私ですが、そこからは数値だけでは表現しきれないおいしさの世界にすっかり魅了されていきました。
木桶とは、まっすぐで節の少ない杉板を組み、竹の箍(たが)で締めた容器。江戸時代から昭和初期にかけて、味噌や醤油、日本酒などの醸造に使われ、日本の発酵文化を支えてきました。しかし、近代化の波とともにステンレスやプラスチック製の容器が普及し、木桶の姿は急速に減少。今では、木桶仕込みの醤油は全体のわずか1%といわれています(※)。

しかし、近年再び木桶への関心が高まっています。長く使い込まれた木桶の内部には微生物が棲みつき、蔵ごとに異なる味わいを育みます。その土地の気候風土・時間・そして人の手、自然と人がともに紡いできたもの。その魅力に注目する人が増えているのです。
木桶に使われる吉野杉は樹齢100年以上。木桶になってからも100年以上使い続けられます。500年の歴史をもつ吉野林業、山を守る人、木を選ぶ職人——木桶には何世代にもわたる人々の技術と想いが宿っています。


今、この木桶文化を未来へとつなぐために、全国の職人や蔵元、研究者たちが動き始めています。古い桶を修復したり、新しい桶を自分たちでつくったり。かつて当たり前にあった木桶文化を改めて見直し、技術を繋ぎ、新しい動きが生まれています。
次回は、失われかけた木桶文化に再び活気をもたらしている「木桶職人復活プロジェクト」についてご紹介します。
岐阜県の山川醸造さんが、「木桶とたまりの文化を伝えたい」と始めたクラウドファンディングのページにも、木桶を使う蔵元からの木桶文化への想いが綴られています。こちらもご覧いただけると嬉しいです。
木桶とたまりの文化を絶やしたくない。山川醸造の「新桶導入」プロジェクト








